あの日みた月を君も
「はい!お待たせしたな。佐久間、近藤こっちへ来て。」

うわ。来た。

重たい腰を上げる。

重たいというのは語弊があるか。

緊張の時間が来たと言う方が正しいかもしれない。

先生はちゃっちゃとセリフとその動きを説明していった。

まずヒロが「本当はずっと君のことが好きだった。」って言った後、私は片思い役のカスミをドンと突きとばして、「私もあなたのこと好きだったの!」と言いながらヒロに抱きつく。

それから、ヒロが「大好きだよ。」と私の目を見つめて言って、そして私が「私も大好きよ。」と言った後、キス。

もちろんカメラに背を向けてキスをする真似だけ。

だけどさ。

できるのかな、私、こんなこと。

担任の説明を「はいはい」と頷きながら聞くも、次第に鼓動が激しくなっていく。

クラスメイト達の視線が一気に私とヒロに注がれている。

こんな場所で?

ヒロをちらっと見ると、至って真面目な顔で担任の説明を聞いていた。

「はい、じゃ、このシーンいきましょう。」

担任が監督さながらのメガホンを持って、ポンと叩いた。


「本当はずっと君のことが好きだった。」

ヒロが少し離れた場所から私を見つめていた。

ただのセリフなのに、顔が熱くなる。

ドキドキする胸を必死に押さえて私も次のセリフを言った。

「私もあなたのこと好きだったの!」

恥をかなぐり捨てて、カスミを軽く突きとばしてヒロの元へ走った。

「ストーップ!」

メガホンをパコパコ叩きながら担任が私達の方へ歩み寄ってきた。

「ここは、ある意味笑いをとる場所でもあるんだから、ここは近藤を思いきり突きとばして。」

「え?だけど。」

「私は大丈夫よ。うまくこけるから。」

カスミが私にウィンクした。

まじか。

本当に吉本さながらの演出なんだわ。

ある意味、コミカルな方がドキドキもましになりそうだけど。
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