あの日みた月を君も
「ちょっと刺激強すぎない?」

私はカスミに寄っかかりながら立ち上がった。

「って、リョウってひょっとしてまだ誰かと付き合ったりとかしたことない?」

カスミは少し驚いた顔をして私を見た。

へ?

じゃ、カスミはあるってこと?

人は見かけによらないのね。

「リョウはやっぱり奥手なのねぇ。」

「カスミも真面目そうに見えたのに、違うのね。」

「誰かと付き合うなんて、真面目とか関係ないと思うよ。」

そう言い放ったカスミがとても大人っぽく見えて、自分が情けなくなった。

「ほんと大山くんかっこいい。ちょっと近づいてみちゃおうかな。」

カスミは窓際でシナリオを眺めているヒロをじっと見つめていた。

ほんと、積極的。

誰かと付き合うにはこの積極性が必要なんだろうね。

私には皆無だわ。

私の周りも付き合ってる子も確かにいたけど、男子と全然平気にしゃべれる子達ばっかりだったな。

私はどうも男子が苦手で、必要以上に話すことはなかったし。

それで、何か困ったことがあったかと聞かれたら、特にないもん。

カスミの肩を叩いて、

「大山くん、がんばってー。」

と小さい声で言っておいた。

言いながら、少しだけ胸が痛く感じた。

けど大丈夫。

演技は時々現実と混同しちゃうよね。

やばいやばい。

来週からはいよいよ撮影らしい。

ちょっとは痩せないとね。

そんなことを考えてる自分ってくだらないと思うけど。
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