あの日みた月を君も
episode-4
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僕が就職したヤナギ化学工業(株)は、大手化学工業会社のプラスチックの加工を主に請け負っていた。

工場は24時間フル稼働だ。

僕の当初やりたかった研究は、なかなかできなかった。

研究よりも生産重視で、そこまで費用も時間もないのが現状だった。

でも、とにかく闇雲に働く。

研究するためには、お金を稼いでそれを資金にしなければならないからだ。

プラスチックはガラスよりも強固で形も自由自在。

色んな分野で形を変えて需要を増していった。


ヤナギ化学工業も少しずつ規模が大きくなっていった。

社員数も僕が入社した5年前と比べると倍にはなっている。

研究も少しはさせてもらっていた。

ある日の昼休み、社長に呼ばれた。

「多治見くん、今ちょっといいか?」

「はい。」

僕は食べかけの弁当に蓋をして、社長の前に座った。

「君は今何歳になった?」

「ええ、27です。」

「そうか、もういい年齢になったな。結婚は考えてるのか?」

「結婚・・・ですか。」

思わず言葉を濁した。

この5年間、がむしゃらに働いていて結婚なんて考えもしなかった。

何人かの女性と軽い付き合いはしていたが、今ひとつ自分の気持ちはのらなかった。

恐らく、アユミのことが心のどこかにひっかかっていたんだと思う。





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