あの日みた月を君も
そんな風に言われたら、ドキドキするじゃない。

ショウコにさっき言われた言葉が頭の奥から湧いてくる。

まさか、ね。

ヒロが私なんて。

そんな自分の動揺をかき消すように話題をふる。

「大山くんもモテるみたいね。ファンクラブができてるらしいわよ。」

「そうなの?まぁどうでもいいけど。」

「お陰で私はとんだとばっちり受けたわ。」

「もしかして、こないだの女子3人に囲まれてたやつ?」

あ、余計なこと言っちゃったかな。

「ま、それは置いといて。」

「って、図星だろ。んなことだろうと思った。」

電車が大きくガタンと揺れた。

私の肩とヒロの腕が少し触れた。

すぐにその腕から体を離す。

演技してるときは抱きしめられても、自分と違う人間のやってることだって思うから何ともない。

だけど、自分自身がヒロと触れるとなると、やっぱり意識の仕方が変わってくる。

変な感じ。

「佐久間さんはどこで降りるの?」

「次の駅。」

「へ、そうなんだ。僕もだよ。」

「同じ駅なの?」

でも、そういえば、出身中学は近くだったもんな。

今更ながらあり得る。

「佐久間さんてさ。」

ヒロってこんなにしゃべる人間だったんだ。

「ん?」

「前にどこかで会ったことある?」

そんなこと聞かれたら、昔の記憶を必死に探しちゃうじゃない。

「どうしてそう思うの?」

「いや、特に意味はないけど。僕と同じ月好きだし、しかも最寄り駅も一緒だし。以前会ったことあるのかなって思ってさ。」

「多分ないと思うわ。」

私はあっさりと答えた。

だって、ヒロなんて全く私の記憶には入ってないもの。

それなりのイケメンなら、普通は記憶の片隅にでも残っていそうだけど。


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