あの日みた月を君も
「そっか。ならいいや。」

ヒロも納得した様子でまた前を向いた。

そして、電車はゆっくりと停車する。

混雑していた電車も、降りる頃には随分空いてきていた。

電車の外に出ると、すぅーっと風が吹いて、呼吸が一気に楽になる。

「あ。」

電車が、ガタンゴトンと音を響かせながら去っていく音を聞きながら、ヒロは夜空を見上げた。

「ほら。出てる。」

ヒロの視線の先には、久しぶりにぽってりと柔らかい色をした大きな月が出ていた。

「きれいだね。」

思わずつぶやく。

「うん、きれいだ。」

ドクン。

ヒロが答えた瞬間に、胸の奥がぎゅっと誰かに掴まれたような、苦しい気持ちになる。

何?

前にもあったような。

確か演技してた時だったか。

私が、ヒロに何か特別な感情を抱いているから?

いや、そんなわけないし。

ヒロの横顔は相変わらずとてもきれいで白くて、月みたいだと思った。
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