あの日みた月を君も
「大山くんて、月に似てるね。」

ヒロは夜空から私に視線を向けた。

そして、大きく目を見開いて、吹き出した。

「何だよそれ。」

「さっき月を見上げてたあなたの横顔、月に似てたから。」

そんなに笑われることなのかしら。

割と真剣に言ったんだけど。

「月に似てるなんて、初めて言われたよ。でも、月好きの人間としては不快ではないけどね。」

不快ではない、なんて。

ま、月は人間ではないし、人ではないものに似てるって言われるとどう解釈していいのかわからなくなるのかもしれない。

私も小学生の頃、「お前ってひよこみたいな顔してるな」っておちょくってくる男子がいたっけ。

ひよこは、まぁまぁかわいい生き物だから許せたけど、月ってのはよくわからないわね。確かに。

「佐久間さんは月が好きな人だから、月に似てる僕は嫌われてないって思っていいのかな。」

ヒロはまた月を見ながらそんなことを言った。

っていうか。

そこに繋がるの?

そういう意味で言ったんじゃないのに。

駅にはいつの間にか人気がなくなり、ぼんやりと薄暗い空気に包まれていた。

なんだかドキドキしていた。

きっと顔が赤くなってる。

この場所が暗くてよかったと思わずにはいられなかった。

改札を出ると、ヒロと私の向かう方向は反対だった。

「また帰り、一緒になるかもしれないね。」

ヒロはそう言うと、「さよなら」と右手を挙げて商店街の方へ歩いていった。

しばらく、ヒロの後ろ姿を見ながら、また一緒になるかもしれない、か・・・と思いながら、くるっと商店街に背を向けて歩き出した。

さっきヒロと見た月が、随分小さく見えた。

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