あの日みた月を君も
どれくらい呼び鈴が鳴っていただろう。

とてつもなく長い時間が経過したような気がしていた。

「はい。」

そして、その声はふいに僕の耳に響いた。

久しぶりに聞くアユミの声は、8年前と全く変わっていない。

何て言えばいいんだろう。

これまで全く音信不通だった僕がアユミに今電話をかけている。

「あのう、どちら様でしょうか?」

アユミらしくとても控えめで丁寧な聞き方だった。

これまで会わなかった時間が、受話器を通して少しずつ縮んでいくような気がした。

「急にごめん。多治見です。」

「ソウスケ?」

アユミが自分の名前を口に出している。

懐かしくてこそばゆいような、学生時代の気持ちのやり場のなかった自分を思い出す。

もうお互いいい大人になっているのに。

受話器の向こうには何もかわならいアユミの姿を見ていた。

「うん。久しぶり。元気にしてた?」

「ええ。でも、急すぎて今頭の中がパニックだわ。ドキドキして心臓がどうにかなっちゃいそう。」

アユミが頬を染めて、自分の胸を掴んであわてている様子が目に浮かぶ。

今すぐそばにいって抱きしめることができたならどんなにかいいだろう。

「・・・どうして、私の電話番号知ってるの?」

少し心配そうな声で聞いてきた。

お父さんのことがあったから、色んなことに用心深くなっているのかもしれない。

「実は、もう随分前なんだけど、マサキから君の電話番号を教えてもらったんだ。」

「え?マサキくん?」

「うん。今新聞記者やってる。」

「あ、そういえば、以前久しぶりに会いにきてくれたわ。」

「え?マサキが君に会いにきた?」

それは初耳だった。
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