さくら 咲け


しばらく歩いて、用事がおつかいでないことはすぐにわかった。



だって、ついた場所は、屋上に向かう階段の踊り場。



「どうしたの、沙奈。こんな所に呼び出して。」



「え、とね
ちょっとだけ、話したいことがあって」



真剣な沙奈の目に、これは、自分もしっかり聞かなきゃいけないことなんだな、って思った。



「まずね、伝えたいことは、


私、圭介くんが好き」



っ、なんでいきなり、そんなこと。



「へ、へぇ、そうなんだ。


で、どうしたの?」



知らなかったフリをする。



「麻奈ちゃんも、好きだったでしょう?圭介くんのこと」



え?



「そうだったよね?」



確かめるように言う沙奈。これは、聞いてるんじゃなくて、確かめてる。



「っ、そうだよ。好きだったよ」



「...だった?」



「うん、だった

もう、好きじゃ、ない」



「うそつき」



「え?」



「うそつき。麻奈ちゃんのうそつき。

まだ、圭介くんのこと、好きなくせに。

私が圭介くんのこと好きになったからって諦めるんだ。」



なんで、そんな事言うの、沙奈。



「言っておくけど、そんなの私全然嬉しくないから。


本当の気持ち隠して、過去形にする麻奈ちゃんなんて、好きじゃない。

まだ、好きなのに。」



違うよ。もう諦めることにしたの。まだ、少し時間はかかるけど、諦めなきゃいけないの。



「違うよ!麻奈ちゃんのは、諦めてるんじゃない。
逃げてるだけ。

私と圭介くんを取り合うこと、圭介くんに決断を迫ることから、逃げてるだけ。」




ずっと、気になってた。



沙奈は、可愛いし、モテる。



私と沙奈は顔がそっくりでも、雰囲気とか、性格は違う。



どこが、違うんだろうって。違うのはわかってたけど、どこが違うのか、わかってなかった。



でも、今初めてわかった。こういうところ。



私はずっと圭介くんを諦める理由を沙奈にしてた。


沙奈を逃げるために使ってた。



二人が両想いとか、そんなのじゃなくて、相手が沙奈だから諦めた。



沙奈は、それに気づいた。そして、それを許さない。



自分と相手の差じゃない考え方をする。



だから、沙奈はすごいんだ。



「ごめんね、沙奈。

私も、圭介くんが好きだよ。」



忘れようとして、忘れきれなかった気持ち。



まだ、捨てるにはもったいない、新しい気持ち。


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