愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
彼の吐息が頬にかかる。
「やめて。皆が見てるわ」
「見せてるんだってば。ねえ。こんなふうに君を抱きしめたら、俺を好きになりそう?」
奏多さんが次々と仕掛けてくる甘い誘惑に動じないよう、私は必死で強がる。
「好きになれば終わるつもりのくせに。本気じゃないなら、そんなことは言わないほうがいいわ。私をバカにしてる?」
「まさか。尋ねているだけだよ」
そのときふと思った。
なぜだろう。彼の笑顔がぼやけて見える。
「瑠衣?どうした」
奏多さんが心配そうな表情に変わる。
私は『大丈夫』と言うつもりで唇を動かすが、声が出ない。
足元の感覚がなくなっていくような気がする。
ここへ来るまでの間に飲んだワインがいけなかったのか。
いろいろなことが一気に起こり、気持ちがついていかなかったのか。
「瑠衣!」
彼が私を呼んだのを最後に、私の記憶は途絶えた。