愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~

「瑠衣。ごめんな。……君をこんなふうに追いつめるつもりじゃなかった」

小声でつぶやいてから、彼女に触れている手を離す。

立ち上がろうとした瞬間、手をぱっと掴まれて驚き、彼女を見た。

「謝らないで。ごめんなさい。うまくやれなくて……」

うっすらと目を開けている彼女が、不安そうな顔で俺を見上げている。

「起きてたのか。気分はどう?君は気を失ったんだよ」

彼女は頭を押さえながら「大丈夫」と答えた。
顔色が悪い気もするが、医師を呼ぶほどではなさそうだ。

「いや、上出来だったよ。少なくとも、俺の縁談はもうないだろう。断る理由も明確になったし、本当に助かったよ」

彼女が身体を横たえている隣にそっと座る。
彼女に掴まれた手はそのままだ。そっと離してから、しっかりと握り直した。
なぜか離れ難い気持ちになったからだ。

「長澤くんには申し訳ないことをしたな。まあ薄々、彼の瑠衣に対する気持ちはわかっていたけど」

俺の言葉に、瑠衣は首をかしげる仕草をした。

「どうして会ったこともない海斗のことがわかるの?」

俺はフッと笑った。

「瑠衣がかわいいから。男ならば、離したくはないと思うんじゃないかってね」

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