愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
「あ……私はただ……」

彼女は奏多さんの冷たい言い方に、わずかに後ずさる。

「おかしな話で、周囲を混乱させたくはない。あなたに勘違いをさせた原因が俺にあるのならば、謝ります。だが勝手にありもしないことを言っているのであれば、臼井社長に今後のことも含めて話をさせてもらう」

急変した奏多さんの態度に、彼女の顔が強ばる。

「いえ、違うんですの。そうだといいな、という話で……」

「そうでしたか。では、はっきりと申し上げておきましょう。それはあり得ない話です。おかしなことを言うと、今後の貴社に対する、弊社の対応が変わってきます」

苦し紛れの言い訳をする彼女を、冷たい視線で見下ろす彼を、私は冷静な気持ちで見ていた。

「無意味な話で俺を怒らせても、そちらサイドにはなんの得もない。俺は、笑えない冗談は嫌いなんです。……わかりますか」

私を抱くこの人は、沙也加が言うような優しいだけの男性ではない。
紛れもなく、国の経済をも揺るがす、財閥グループのトップなのだ。

「もっ申し訳ございません。では私はこれで失礼いたします」

逃げるように立ち去る彼女を、奏多さんは睨むように見つめた。
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