214草子
素直になれない幼馴染み
【素直になれない幼馴染み】


 毎年チョコを山ほどもらう幼馴染みは、今年も大豊作のようだ。

 そりゃあ顔は良いし、性格もまあ良い。誰にでもにこにこしているけれど、言うべきことはちゃんと言うし。成績は上から数えたほうが早いくらい。背もわりと高い。だから男子にも女子にも満遍なく人気で、バレンタインに山ほどチョコをもらっても、ひがんだり妬んだりする男子はほとんどいない。

 そんな人当たりが良すぎる完璧な人間なんてどうせいない。影では恐ろしいことを言っているんでしょ。腹の中真っ黒なんでしょ。と思いきや、やつは昔から、頭のてっぺんから足の爪先まで真っ白なやつだ。
 モテないわけがないな、と。わたしは毎日苦笑している。

 そんなことを考えながら、机に積まれた明らかな本命チョコの数々――有名店の高級なものや、可愛くラッピングされたもの、イニシャルしか書いていない特定が難しいものや、謎の空き箱ロボットなどなど……――を見ていると、やつがわたしに手のひらを見せた。

「なに?」
「チョコ。ちょうだい」
「これだけもらってまだ欲しいの?」

 言うとやつは考える間もなく「欲しいよ」と即答する。

「みんなからチョコもらえて嬉しい。でも、この中にちよちゃんのチョコはないでしょ?」

 こんなことをごく普通に、自然に、裏もなく、純粋な気持ちで言ってしまうのだから恐ろしい。
 わたしはやっぱり苦笑して、用意していた一口チョコを、差し出された手の平の上に乗せると、やつは「ありがとう」と言って、今年一番の笑顔を見せた。

 一口チョコでもちゃんと用意していたなんて恥ずかしいから、わたしはすっと目を反らして「帰ろ。詰めるの手伝う」と言って、ちょっとした収納ケースくらいなら入りそうな巨大紙袋に手を伸ばした。




(了)
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