人間複製機
それでもあたしの心は弘樹に揺らぐことはなかった。


弘樹の顔が近づいてくる。


キスにはもう馴れた……はずだったのに、あたしの脳裏に陸人の笑顔が蘇って来た。


その瞬間あたしは弘樹の体を突き飛ばしていた。


弘樹は驚いた顔であたしを見ている。


脳裏にはまだ陸人の笑顔が貼りついていて離れてくれない。


「なんだよいきなり!」


突き飛ばされた弘樹が徐々に顔を赤くしていき、あたしを睨み付けて来た。


この部屋の中での主導権は弘樹にあると言っても過言ではない。


弘樹に逆らえば複製機を使わせてもらえない。


そんな事、分かっていた。


それでもあたしはキスさせることができなかったんだ。


「やっぱり無理。キスなんてできない」


キッパリそう言い切ると、弘樹は唖然とした表情を浮かべた。


「なに言ってんだよ今更。今までだって散々――」


「やめて!」
< 91 / 211 >

この作品をシェア

pagetop