愛しのエマ【完】

副社長室より広くて豪華な社長室。
さすが大企業の社長。
入口より遠い場所でデスクに座り
「忙しいのに悪かったね」と、穏やかな優しい声で迎えてくれた。

ロマンスグレーのイケメン社長。
でも
その優しい声が語る内容は
とんでもない内容だった。

「表向きは副社長の雑用係として、総務から個人秘書の形で移動をお願いしたいのだが、どうだろう?」

どうだろうって?
秘書?いくら雑用係としても
私より綺麗で賢い秘書が山ほどいますよ。
秘書の資格も何も持ってないし。

「実は……誰にも言わないで、ここだけの話にしてほしいのだが」

「はい」

「息子の仕事の意欲が無くて」

「はい?」

「あのまま海外でやりたい仕事もあったのに、長男があんな事になって、私は無理やり玲央を日本に連れ戻したんだ。玲央は優しい子だから嫌とは言わなかったが、恋人とも離れてしまい慣れない仕事をさせ、本当に悪いと思っている」

大企業のトップではなく
息子を心配する
父親の顔をしていた。

「玲央は君を気に入ってるようだね。玲央の恋人と似てるんだって?」

「らしい……ですね」

「力になって欲しいんだ。ほら、玲央は日本語が少し微妙なので教育係として」

「教育係って言われましても」

無理無理無理。

腰が引ける私に社長は「そばにいて、抱き枕になってくれるだけでいい」と、本音をもらす。

社長ーー!
自分が今
何を言ったかわかってます?
抱き枕ってありえない。

「支えて欲しい」

「自信ありません」

「もちろん、ただとは言わない」

社長はスッと中封筒を机にのせた。

「30万ある。お金で失礼かもしれないが、親心と思って受け取ってほしい」

30……万円?

頭の中を札束が舞う。
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