シンシアリー
幼い姫が欲しがったもの
世継ぎの男子をつくることを人生の最優先事項としていたゼノス大公とカサンドラ妃は、我が子・レティシアのことを、生まれたときから放置したも同然の生活を送っていた。
レティシア姫に歯の磨き方や服の脱ぎ着の仕方といった生活の一部として欠かせないことを教えたり、姫の明るく柔らかなはちみつ色の髪を丁寧に梳いてくれたのは、公邸に勤める女中たちである。
そしてレティシアに「言葉」を教え、教養を身につける手助けをしてくれた最初のもの、それは「本」だった―――。

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