シンシアリー
自由を求めて・・・政略結婚
翌朝。
レティシアはゼノス大公の執務室へ赴いた。
もちろん、ユーグも同行している。
そしてゼノス大公が一人でいることを、二人が見計らったのも――。

レティシアは、あのときの恐怖を思い出さないよう、冷静さを失わないように努めながら、ゼノス大公に昨晩、ヘルメースに襲われたことを、包み隠さず打ち明けた。
まだレティシアの首周りに微かに残っているヘルメースの指痕も、ゼノス大公に見せたのだが・・・「ヘルメースが悪ふざけをし過ぎただけだろう」とゼノスが言ったのは、やはりレティシアが思っていたとおりだった、と言うべきか。

しかしゼノス大公がそう言ったのは、レティシアが言ったことを信じていないからではない。
逆に、レティシアが言ったことだからこそ、たとえ「証拠」がなくても信じている。
そしてヘルメースならそれくらいやりかねないという想いを、心の奥底に抱いているからこそ、「信じたくない」という想いが先立ってしまったのだ。

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