シンシアリー
レティシア姫の目に、もう涙は溜まっていなかった。
代わりに、ヘーゼル色の瞳はキラキラと輝き、全身、全てから活きる力をみなぎらせている。
まるで枯れかけていた花が、一瞬で息を吹き返し、大輪の花を咲かせたような雰囲気の変貌に驚いたセイヴィアーは、思わず半歩後ずさってしまった。

「ひ、姫様。雨がひどくなる前に帰りましょう」
「そうね。聖書が濡れてしまうわ」
「姫様。聖書は私が持ちましょう。こちらへ」
「ありがとう、ベイルさん・・・あら。この人はだれ?」
「あぁそう言えば、姫様はこいつに会うのは初めてでしたな。紹介します。これは私の倅、ユーグです」

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