シンシアリー
彼はすでに立派な騎士
セイヴィアーの教えの良さに加えて、レティシア姫の呑み込みが早かったおかげだろう。
1ヶ月経った頃にはもう、子馬を乗りこなせるようになった姫は、早速街のあちこちへ出かけ始めた。

レティシア姫は「行くときは必ずセイヴィアーと共に。一人で街まで外出してはならぬ」というゼノス大公からの言いつけを忠実に守ったので、毎日外出はしていない。
セイヴィアーには騎士長官としての仕事があるし、姫には勉強がある。
だがアンドゥーラ公国は、丸1日もあれば、公国の全土を馬で十分見て回れるくらいの小さな公国。故に「ミニ国家」である。
しかしこれまで「外出」といえば、公邸の庭と、亡母・カサンドラ前公妃が眠る墓地だけだったレティシア姫にとって、アンドゥーラの街や国境付近の自然の風景を、実際に自分の目で見ることは、その分、姫の「外の世界」が広がったことを意味する。

姫は、市場で売られている数々の品に目を見張り、南部にある養蜂場に行ったときには、「生まれて初めてこんなにたくさんの蜂を見た」ことに驚きながら、蜂の飼育法を、遠目からではあるが、じっくりと観察した。
同時に、蜜ろうから作られる品は、例えば蝋燭(ろうそく)や時計、手紙の封等、日常生活中の大部分で使われていることや、さらに、はちみつは、食用にもなることを知った姫は、ミツバチを飼育すること―――つまり養蜂業―――は、人々の暮らしを支える大事な産業の一つであると、ハッキリ認識した。

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