ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
 次の日、少し遅れて実験室の扉を開けた。

「…どうしたのよ先生。何かあったの?」

と『おはようございます』の声もなく、落ち着いた声で広海君が聞いてきた。

「済まない。ちょっと遅くなった」

と頭を下げて返すと、広海君が僕の後ろに目を遣った。

「ミライさんは?」

といるべきミライの姿を探す広海君。

「…ああ、それが早めに夏休みを取って実家に帰らないといけなくなってさ。戻って来るのはお盆頃になるらしいんだ」

と所長の言い訳の通りに答えた。

「へぇ、そう」

と低い声のトーンで答えて、机に向き直る広海君。

(…突っ慳貪だな)

さすがに20人分の実験を一人でやらせたのは悪かったかも。

「昨日は済まなかった。実験を君一人に任せて」

一言気遣っておかないと。

「いいのよ。ミライさんの事だから。先生が悪いんじゃないでしょ」

と、気遣ってくれたのかどうか、広海君が珍しく淡々と準備をしてパソコンに向かい始めた。気持ち悪いぐらいに。

「…どうしたんだよ今日は。やけに大人しいんじゃないか?」

と問い掛けると、広海君がフッと振り向いてきた。
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