ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「でも、向こうはアメリカ育ちなんだから、挨拶代わりのキスぐらいはするんでしょ?」

あ~、確かに健康診断で毎朝キスはしてたっけ。

「それはそうだね」

と答えた途端、広海君がギュッと腕をつねってきた。

「やっぱりするんじゃない」

シマッタ、誘導尋問に引っ掛かった!

「いやいや、挨拶代わりだってホントに」

全力で笑顔を作って取り繕った。上手いトコ突いてくるナ。

「ふ~ん。まあいいわ。センセーってそういう嘘はつけそうにないから」

…それは喜んでいい言葉なのか?

「ねぇ、ひょっとしてミライさんの具合がかなり悪いの?それぐらいの落ち込み様だけど、先生」

と伏せ目がちに聞いてくる広海君。

「え、そうか?いや、全然そんな事ないんだよ。ちょっと疲れただけ疲れただけ」

ハッと我に返って、両手で顔をパンッと叩いて笑顔を作ってみせた。

(暫らくミライがいないってだけじゃないか)

広海君に気を遣わせるほど落ち込んでどうする。

「ホントに大丈夫なのね?」

とチラリと横目で見てくる広海君。

「ああ、大丈夫だって。ほら、心配する事ないよ。僕の事もさ」

少々気を張って答えた。

「そうね、ちゃんと先生のやることやってくれるなら私はそれでいいけど。20人分の実験やらされたんだから、データ整理ぐらい率先してやってくれるんでしょうね、センセー」

って、どこか引き攣った笑顔の広海君。やっぱり怒ってるぅ?

「もちろんやるよ」

広海君の顔色を窺いながらの二人の実験室は、なかなか落ち着けなかった。
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