ふたりの彼女と、この出来事。(旧版)
「あっそうだセンセー、写真見る?」

と晩ご飯も食べ終えフロにも入って寛いでいた頃合を見計らったかのように、立ち上がってアルバムを持って来て広げる広海君。と、ヒラッと一枚古びた写真が落ちた。

「あっ、それ一番古い写真」

拾い上げてみると、幼稚園ぐらいの年頃の広海君が動物園のヤギの柵の前から駆け寄って来ている写真だった。

「おー、かわいいね」

小さく可愛らしい姿でレンズに向かって走ってくる写真。両手は何かを求めるように真っすぐこっちに向かって伸びていて、口はニッコリと笑ってはいるが、眉がくねっていてまるで、

「なんだか、今にも泣き出しそうな笑顔だね」

次の瞬間には泣き声を上げているかのような、そんな写真に見える。

「わかってくれるんだー!」

と、広海君がワッと声を出して、腕にしがみ付くように横に寄り添ってきた。

「この時ね、ヤギに夢中になってて、振り向いたら誰も居なくて、パッと家族を見つけた時に撮られた写真なの。見つけた時は嬉しくて、でもひとりぼっちにされたのが寂しくて、この後ワンワン泣いちゃった。今でもはっきり憶えてる。その時の事…」

と急にしおらしく僕の腕にギュッとしがみ付いてくる広海君。やけに感傷的だナ。

「気が付いたらひとりって、とっても寂しい。…今だってそう」

と顔を上げる広海君。今にも泣き出しそうな表情だ。

(気が付いたらひとり、か…)

何か温もりを求めずにはいられない喪失感は、よくわかる。
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