悪魔の囁きは溺愛の始まり

コンコン。


「一花です。失礼します。」


ドアをノックし、社長室に足を踏み入れて固まった。

ソファーに腰掛ける人物に目を疑った。

ドアを開けたまま固まる私をニヤリと口角を上げて見ている人物に我に返る。


「一花、座りなさい。」

「はい。」


ドアを閉めて、父の隣に座るつもりが腕を掴まれて引かれた。

バランスを少し崩した私は彼の隣に座る羽目になってしまった。


「ちょっと。」

「一花さん、隣に座って。」


別人のような口調で話す人物に目を見開いた。

父の前では猫を被るようだ。


「一花、マリンコーポレーションの岡崎さんと付き合ってると聞いたが？」

「………はい。」


喧嘩をしている最中だが、別れてはいないのは確かだ。

父を見れば、満足そうな表情をしている。

蒼大さんの家柄を聞いたに違いない。


「結婚を前提とした付き合いらしいが、一花、本当なのか？」

「えっ？」

「違うのか？岡崎さんからはそう聞いたが？」