悪魔の囁きは溺愛の始まり
だけど私は渡部さんの話を続けた。


「兄も渡部さんを凄く信頼してるんです。きっと父も………。」

「ふ~ん、やり手なんだな。」

「そうです。でも社員である渡部さんとは無理。絶対に父は反対するから。」


私は重くなってきた瞼を落とし、隣の蒼大さんの肩へ凭れ掛かった。


「蒼大さん、大切な上司なんです。傷つけたくないんです。」

「………。」

「私はどうするべきですか?」

「ただ俺を選べばいい。」


蒼大さんの囁く声が耳元から聞こえてくる。頭を撫でてくれる優しい手に縋りたくなる。


「誰も傷つかない恋愛があれば、それがベストだが。今の状況では無理な話だ。」

「…………そうですよね。」

「一花の傷つけたくない気持ちは俺にも伝わってる。だけど俺も譲れないから。」

「…………うん。」

「一花はただ俺を選べばいい。もう他の男の話はするな。」


唇に触れる感触は蒼大さんの唇だろう。私への愛しさが触れる唇から伝わってくる。

最後に聞こえてきた甘い囁きは私を夢の中へ誘っていった。


「おやすみ、一花。俺だけを見て。」
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