お見合い結婚時々妄想
見合いが終わってからの自分の行動には、後から考えても笑ってしまうぐらいだ
祥子さんと連絡先を交換して別れた後、その場で父に電話した


「この話、進めていくから。このまま順調に行けば、近いうちに結婚するかもしれない。あちらのお母さんにも伝えておいて。こちらは断るつもりはありません。近いうちに挨拶に伺います。もちろん祥子さんの気持ちは大事にしますからって。」


それを聞いた父は、驚いてはいたが喜んでくれて、早速彼女のお母さんに連絡をしておくと言ってくれた
回りから固めるなんて、我ながら姑息な手段とは思ったが、そうまでしても彼女を手に入れたかった
しかし今、大きな仕事を控えているのもあり、しばらく会えないことが、とても辛かった
会えない時は、電話やメールは欠かさずしていた
そうやってやりとりしているうちに、「皆川さん」と呼ばれていたのが、「慎一郎さん」になったときは、思わず自分がトリップしそうになった


見合い後初めて会えたのは、1ヶ月たった頃だった
天気も良かったので、ドライブに行った
その方が、2人で思う存分話せると思ったからだ
途中で何度も祥子さんはトリップしていたが、戻ってくる度に


「お帰り」


と言うと、

「ごめんなさい!」


と慌てて謝るのを見るのも楽しかったし、トリップしている時の彼女の顔を見て、何を考えているんだろうと想像するのも、僕にとっては楽しみの一つになった


「次に会える時は、祥子さんのお母さんに挨拶をしたいから、お母さんに都合を聞いておいてくれないかな」


と言ったら、びっくりしながらも


「はい。じゃ母にもそう言っておきます」

と言ってくれた


そうして、一日中ドライブを楽しんで彼女が住んでいるアパートに送って行ったときに、初めてキスをした
案の定、彼女はトリップしていたけど……
次に会えることになったのは、またそれから1ヶ月後

約束通り祥子さんのお母さんと会うことになったのだが、それを知った僕の父から


「父さんにはまだ会わせてくれないのか?どうせなら、4人で一緒に会えばいいじゃないか。どうせお前の仕事の都合でまたいつになるのか分からんのだろう?」


と言われ、それもそうだなと4人で会うことした
ちょっとした郊外にあるレストランで、4人の初顔合わせをして話していることはと言うと……


「うちの娘を貰ってくれるような方と巡り会うなんて、同窓会にも行ってみるもんですね」
「それはこちらも同じです。うちの息子は一生独身かと、半分諦めてましたからねえ」


と互いの親の中では、もう結婚が決まっているようだった
僕としてはこのまま流れに任せるままでは流石にマズイと思い、話が弾んでいる親たちを置いて、祥子さんをレストランの中庭に、男としてケジメをつけるためにも連れ出した


「本当にすいません。なんかうちの母、完全に舞い上がってしまって、失礼なことを……」
「気にしないで。うちの父も似たようなものだから」


ため息をついている彼女の両手を自分の両手で包み込んだ


参ったな
こんなに緊張するするもんだとは……


「祥子さん。これからの人生、僕と共に歩いてくれませんか?」
「……え?」


多分その時、僕の手は小刻みに震えていたと思う


「慎一郎さんは私でいいんでしょうか?」


そんなこと当たり前だ
僕には君以外には考えられないんだから


「私達、出会って間もないですし……それに……」
「祥子さん」

僕は祥子さんの言葉を遮った
彼女は驚いたように、僕を見上げた


「祥子さん、君の言いたいことは、言われなくても分かっているつもりです。でも僕は、そういうことを全部引っくるめて、君と一生を生きていきたい。ダメだろうか?」


一瞬泣きそうな顔になったけど、すぐに笑顔になって、言ってくれた


「私も、慎一郎さんと一生一緒に生きていきたいです。不束者ですが、よろしくお願いします」


自分の人生にこんな幸せな瞬間があるなんて、思わなかった


その後二人で手を繋いで親たちのところに戻ったら、2人とも満足そうに僕達を迎えてくれた


「皆川さん、慎一郎さんと2人で話したいことがあるので、ちょっと息子さんをお借り出来ないでしょうか?」
「私もちょっと、祥子さんをお借りしたいのですが、いいでしょうか?」


お互いの親がそんなことを言いだし、祥子さんは父と中庭へ、僕はお義母さんとレストランに残された
何を言われるのか想像できないままでいると、お義母さんは深々と僕に頭を下げた


「祥子のこと、よろしくお願いします」


慌てた僕はお義母さんに頭を上げて下さいと頼んだが、聞いてはくれなかった


「私は若い頃に夫を亡くしました。それから形振り構わず子供達を育ててきました。子供達の事をあまり構ってやれなかったことも事実です。たから、子供達は我慢してきたことが多かった。特に祥子はもともと辛抱強い性格でしたから、我が侭もほとんど言いませんでした」


ため息をつきながらもやっと少し頭をあげてくれた


「それに祥子のお見合い相手は条件がいい方を選んでいました」
「父から聞いています。祥子さんに同じ苦労をさせたくないからとだと……」
「それも理由の1つです」
「理由の1つ?」


一呼吸置いて、僕の顔を見ながらはっきりと言った


「私のように若くして夫を亡くした場合でも、お金を残してくれるだろうと思ったからです」


言葉を失った
本当に何を言っていいのか分からなかった
でも、お義母さんの気持ちが分からないでもなかった
多分、本当に苦労して子供達を育ててきたんだろう
それを我が子だけには……と願う気持ちの表れではないのだろうか
それに、お義母さんが本当に僕に言いたいことは違うだろうともいうことも


「お義母さんとお呼びしていいでしょうか?」
「……??」
「お義母さん、僕は祥子さんがやることなすこと可愛くてしょうがないんです」


お義母さんは、目を丸くして本当にびっくりしている
そんな表情も祥子さんと似ていて、笑顔が溢れた


「それに、収入も他の同年代の連中に比べても多いので、それに関しては祥子さんに苦労させることはありません」


もうお義母さんは泣きそうだ


「それと、自慢話をしてもいいでしょうか?」
「自慢話ですか?」
「はい……僕は中学、高校と皆勤賞でした。小学校から大学まで野球部でしたし、今も草野球チームに所属してますので体は鍛えてます。それに、社会人になってからも病欠した事はありませんし、毎年の健康診断もちゃんと受けてます」


お義母さんは僕が何を言いたいのか分かったらしく、涙をポロポロ溢していた


「だから、祥子さんにお義母さんが味わった悲しみや寂しさを味あわせないように、苦労をさせないように、努力します。僕としてもそんなこと祥子さんにさせたくないですから……なので僕は……」


泣きながら僕の手を握って、ありがとうと繰り返し言ってくれている
でもお義母さん、これだけは言わせて下さい


「僕は、長生きしようと思います。祥子さんの為にも。自分の為にも」


お義母さんは号泣してしまった
他のお客さんが何事かとこちらを見ていたけど、気にならなかった
だってこの人は、僕にとっても母親だから
だから、思う存分泣いてください
これからも親孝行させてもらいます
そんな思いを込めて、ずっとお義母さんの背中を擦っていた
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