お見合い結婚時々妄想
番外編2 慎一郎さんとデート
結婚して間もない頃、新生活にもなれてきたなと思っていたら慎一郎さんがこんな事を言った


「祥子、今度の休日、一緒に出掛けない?」
「えっ?」
「まともにデートしたことほとんどないでしょ?僕達」


確かに初めて会ってから結婚式までほとんど会えなくて、結婚してからも慎一郎さんの仕事が忙しくて、新婚旅行に行った時ぐらいしか2人で並んで歩くなんて、ほとんどないかもしれない


「いいんですか?せっかくの休みに。慎一郎さん疲れてるなら、家で休んでてもいいんですよ?」


私が遠慮がちに言うと、慎一郎さんは私の頬を両手で包み、優しく見つめてくれた


「僕が祥子と出掛けたいんだ。だから、そんなに遠慮しないで?」


そう言って微笑む慎一郎さんに、思わず笑顔になる


「デート、してくれる?」
「はい」
「良かった」


安心したように笑って、キスされた


「どこに行くんですか?」
「実は、連れて行きたいところがあるんだ」
「連れて行きたいところ?」
「そう。だから楽しみにしててね」


『連れて行きたいところって、どこだろう?慎一郎さんのお気に入りの場所なのかな?そう言えば、慎一郎さんの趣味とか全然知らないや。野球をやってるのは知ってるけど。後は何も知らない。こんなんでいいのかな?私、慎一郎さんの奥さんなのに?』


1人でちょっと落ち込んでいると、慎一郎さんが私の手を握ってくれた


「祥子?お帰り。なんでそんな悲しそうな顔してるの?」


慎一郎さんが心配そうな顔してたから、私は慌てて謝った


「ごめんなさい!私……」


慎一郎さんは微笑みながら、首を横に振った


「謝らないで?大丈夫だよ?祥子」
「……デート、楽しみです」


慎一郎さんとデートするのは本当に楽しみだったから、笑顔でそう言うと、慎一郎さんも笑ってくれた


「僕も楽しみ」


慎一郎さんの笑顔を見ながら、早く休日にならないかなぁと思った
そして休日
結局どこに行くのか教えてくれないまま、車に乗せられた


「まだ教えてくれないんですか?」
「うん、まだ内緒」
「どうしてですか?」
「どうしても」


口を尖らせて慎一郎さんを見たら


「運転中なんだから、そんな可愛い顔して見ないの」


と言いながらも、頭を撫でてくれた
もうっと思いながら、窓の外を見ていると景色が段々変わってきた
そして、カーブを曲がって見えた景色は、もの凄く綺麗な海だった


「うわぁ、綺麗!海!慎一郎さん、凄く綺麗!ねえ、見て!慎一郎さん!」
「ははっ。祥子、僕は運転中だって。そんなに興奮するなんて、海見るの初めてじゃないでしょ?」
「でもこんな綺麗な海、初めてです!」


車は海岸線を走っていて、太陽に照らされた海がキラキラと輝いていた


「天気が良くてよかったよ。話には聞いていたけど、実際来るのは僕も初めてなんだ」
「えっ?そうなんですか?」
「うん。黙って連れて来た方が、感激もひとしおだって言われて。だから祥子に何も言わなかったんだ。予想以上に祥子が喜んでくれて良かった」


満足そうに笑う慎一郎さんを見て、首を傾げた


『誰かに言われたって、誰に言われたの?初めて来たって本当なの?本当は誰かと来たんじゃないの?だって絶対、慎一郎さんモテてそうだし。元カノとか美人なんだろうなぁ。それに引き替え私は……顔も平凡だし、スタイルも良くないし、慎一郎さんと並んでても全然不釣り合いだし……』


「……うこ、祥子」
「へっ?」


声がする方を見てみると、笑顔の慎一郎さんが助手席のドアを開けていた


「えっ?慎一郎さん、運転……えっ?」
「お帰り、祥子。着いたよ」
「着いた!?いつ?」
「ついさっき。さ、降りて?」


どれだけトリップしてたんだと思いながら、慎一郎さんが手を差し出したので、躊躇いながらも自分の手を重ねた
車を降りると、海岸線から高台の方に来ていて、綺麗な海は眼下に広がっていた


「うわぁ……」
「これは凄いな」


心地よい風に、潮の香り
そして、海
車で来られる距離にこんな綺麗な場所があるなんて


「綺麗ね、慎一郎さん」
「そうだね。よし、行こうか」
「え?ここじゃないんですか?」
「そう。本当の目的は、あそこ」


慎一郎さんが指差した先には、赤い屋根と白い壁のおとぎ話に出てきそうな建物


「うわぁ。可愛い。あそこ、何?」
「祥子、そろそろお腹すいてない?」
「えっ?」


慎一郎さんはにっこり笑って、行くよと言って私の手を引いて歩き出した



「いらっしゃい、皆川先輩。やっと来てくれましたね」
「久しぶり、隈井」


建物に入ると、長髪で髭面の体格のいいお兄さんが、エプロン姿で出てきた
この建物と、このお兄さんとのギャップが有りすぎて、思わず引いてしまった


「先輩の奥さんですか?」
「そう、妻の祥子」


お兄さんが私に笑顔で話し掛けた


「はじめまして、皆川先輩の高校時代の後輩で、隈井稔です」


ニコッと笑うお兄さんは、見かけとは裏腹に可愛らしい笑顔だった


「熊……さん?」


私のその言葉に2人は思いきり笑った


「祥子、よく分かったね。それコイツのあだ名」
「そうなんですよ、この店の名前も『海の熊さん』だし?」


2人は笑いが止まらない
なんだか居たたまれなくて、俯いた


「祥子?」
「……ごめんなさい。変な事言って」


下を向いたままでいると、慎一郎さんが繋いでいた手を強く握った
私が見上げると、優しい笑顔の慎一郎さんがいた


「変な事じゃないよ?隈井のあだ名、本当に『熊さん』なんだ。この見た目と名前でね。で、この見た目に似合わず、こんなおとぎ話のような店を出すと言い出した。そこで、僕が店の名前をつけたんだ『海の熊さん』ってね」
「酷いですよね?こっちは人生賭けて店を出そうと必死になってるときに、先輩はふざけて店の名前決めたんです」
「でもいいじゃないか。結構評判になってるし。繁盛してるんだろ?」
「お陰様で。さ、席に案内します。どうぞ」


隈井さんが案内してくれたのは、海が一望できる席だった


「すごい……」
「この店一番の特等席です。少々お待ち下さい」


私達が席に着くと、隈井さんは奥に引っ込んでしまったので、私は首を傾げていた


「あいつが料理するんだ」
「へっ?熊さんが!?」
「そう、熊さんが」


あっと口を押さえると、慎一郎さんがいいんだよと言ってくれた


「隈井は、結構いい会社に勤めてたんだ。でも3年前かな?いきなり脱サラして、この店を開くと言い出した。しかも、あの図体からは想像出来ないくらいのこのお店。でも僕は、そのギャップがいいと思うって言ったんだ。そしたら……」
「先輩、ありがとうございます!って言って、泣いたんです」


いつの間にか隈井さんが、そこに立っていた


「前菜です。次はスープを持って来ますね」


そしてまた、奥に行ってしまった


「さ、食べよう?祥子」


うん、と頷いて前菜のテリーヌを口にした


「美味しい……」
「でしょ?」
「これ、隈井さんが?」
「そう、あいつの料理、久しぶりに食べたけど、やっぱり美味い」
「そう言えば、さっき隈井さん、泣いたって……」
「ああ、あれね」


慎一郎さんは思い出したように笑った


「僕だけだったんだって。いいと思うって言ったのが」
「慎一郎さんだけ?」
「そう。隈井はいろんな人に相談したらしい。そして誰もが反対するか、馬鹿にしたそうだよ。そんな中、僕だけが反対も、馬鹿にもしなかった。それが嬉しかったって」
「それでこの店を?」
「そうなんです。この店を出せたのは皆川先輩のお陰なんです」


そう言って、また隈井さんはいつの間にか来ていてスープを出してくれた


「でも、酷いんですよ?いざ開店したから店に来て下さいって言っても全然来てくれない」
「だって、しょうがないだろ?忙しかったんだから」
「そう、もう来てくれないと諦めかけてたときに連絡があったんです『結婚したばかりの妻が、溜め息ばかりついてるから、店に行っていいか?』って」
「おい、隈井……」


驚いて慎一郎さんを見ると、困ったような、照れたような顔をしていた
すると、ぷはっと隈井さんが笑った

「まさか、先輩のそんな顔が見られるとは。じゃ、俺はメイン料理作って来ますんで、ちょっと時間掛かるんでゆっくり話してて下さい」


そうして、ウインクして奥に言ってしまった


「隈井のやつ……」
「慎一郎さん、私……ごめんなさい」


私が俯いていると、慎一郎さんが手を握ってくれた


「祥子、何で謝るの?」
「だって」


涙が溢れるのを我慢するのが大変だった
慎一郎さんに気を使わせて、心配かけて、自分が情けなかった


「祥子、僕は祥子が好きだよ?」


え?と顔を上げると、慎一郎さん溢れた涙を拭ってくれた


「だから、遠慮しないで何でも言って?祥子が何を言っても、祥子を好きな気持ちは絶対に変わらないから」


その言葉を聞いて、私はポツリポツリと慎一郎さんに話した
結婚してから、思ってたことを
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