お見合い結婚時々妄想
番外編5 息子の嫁と言うよりは
長男の慎一郎に見合い話を伝えたのは、ただきっかけになってくれればと思ったからだった
自分が離婚したのは、慎一郎は中学1年生、次男の祐二郎が小学4年生の時だった
思春期だった慎一郎は、その頃からどことなく自分の感情を表に出さない子になってしまった


「お兄ちゃん、最近遊んでくれないし、笑ってくれない……」


いつか祐二郎が私に泣きそうな顔をして言うまで、慎一郎の変化に気付かなかったことに、父親として後悔した

そんな慎一郎がいい年をして、仕事一筋で身を固めないのは、自分の離婚が原因だろうと思っていたところに、亡くなった後輩の奥さんが自分の娘の見合い相手を探していると聞いた

本当に慎一郎が昔の慎一郎に戻ってくれるきっかけになってくれればと。そんな気持ちだった
慎一郎に見合い話を持ちかけたとき、予想通り慎一郎は断った

だが「慎一郎が結婚しないのは、父さん達のせいじゃないのか?」と言ったら、「分かった、会うよ」と渋々了承してくれた

元々優しい子だったから、私を気遣って「会うよ」と言ったのではと思ったが、これで息子が幸せになってくれればと、親としては願わずにはいられなかった

どうせ断るだろうと思っていた見合いだったが、見合いを終えた息子からかかってきた電話は意外なものだった


「この話、進めていくから。このまま順調に行けば、近いうちに結婚するかもしれない。あちらのお母さんにも伝えておいて。こちらは断るつもりはありません。近いうちに挨拶に伺います。もちろん祥子さんの気持ちは大事にしますからって」


一気に捲し立てて言った息子に驚いたが、心のどこかでほっとした

やっと慎一郎が幸せになってくれるかもしれない
昔のように、心から笑ってくれるようにるかもしれない
そんな事を思いながら、見合い相手の加山祥子さんに、心から感謝した

それから暫くして、私達親子と加山さん親子が顔を合わせる日がやってきた
初めて会った祥子さんは、ふんわりとした可愛らしい人だった
何より、慎一郎の表情が、昔の慎一郎の笑顔だった


この人なら、間違いなく慎一郎を幸せにしてくれるだろう


そう思った私はその日祥子さんと2人で話した時、1枚のメモを祥子さんに託した
それは、別れた妻の連絡先を書いたメモ
慎一郎が幸せな家庭を築いたら絶対に別れた妻に会いたくなるだろう
その時はこのメモを渡して、母親に会って欲しい……そう思ったからだ
父親としての勘としか言いようがなかったが、慎一郎なら絶対に、そう思いますだろう

祥子さんは始め、そんな大事な事自分には荷が重いと断った
だから、私はそのメモの裏に一言添えた

『慎一郎、会いに行きなさい』

と、ただそれだけを


祥子さんには、慎一郎の背中を押してやって欲しい
ただそれだけでいいからと
そう言って頭を下げた
私にほだされたのか、祥子さんは私の願いを承諾してくれた


「分かりました。慎一郎さんがお義母さんの事を話してくれるか、自信はありませんけど……その時は、慎一郎さんの背中を押してみます。約束します」


そう言ってくれた祥子さんに私はにっこり笑った


「きっと、慎一郎を幸せに出来るのは祥子さんだけだ。慎一郎を、息子をよろしくお願いします」


そう言うと、祥子さんは泣いてしまった
それが元で慎一郎と口喧嘩をしてしまうのだが……
でも、口喧嘩をするのも久しぶりだと思い、喜びを噛み締めていた


そして……


「博太郎さん、早く仕度してくださいね」
「小夜子、そんなに慌てなくてもいいじゃないか」
「だって、早く祥希ちゃんに会いたいんだもの」


そう言って忙しなく支度をしている小夜子を、再び私の妻になった息子達の母親を苦笑しながら見た


今日は慎一郎と祥子さんの間に産まれた私たちの初孫、祥希子に会いに行くことになっていた
自分達に息子しかいなかったからか、初孫が女の子だと知った時は嬉しくてしょうがなかった

そして、こうして小夜子とまた夫婦に戻れるなんて
思ってもいなかったことだった


「いらっしゃい、お義父さん、お義母さん」


祥子さんに迎えられて、リビングに行くと、慎一郎が祥希子をあやしていた


「祥希子〜お祖父ちゃんたちが来たよ」


慎一郎は祥希子が産まれてからというもの、親バカ炸裂で困っていると祥子さんが言っていた

まあでも、祥希子が可愛いのは紛れもない事実なので、私も慎一郎の事をとやかく言うつもりもなかった

慎一郎と小夜子が祥希子をあやしているのを見ていると、祥子さんがお茶を出してくれた


「もう、慎一郎さん。お義母さんに祥希ちゃんを抱っこさせてあげればいいのに。しょうがないんだから」
「慎一郎は片時も祥希子を離したくないみたいだね」
「そうなんですよ。今度は平日に来て下さいね。慎一郎さんがいないときに」
「いいのかい?」
「もちろん」


ありがとうと言うと、祥子さんはにっこり笑った


そしてまた、慎一郎と小夜子を見ると、2人とも祥希子を渡せ、いや渡さないと、言い合いが始まっていた

祥子さんは溜め息をつきながらも、幸せそうに2人を見ていた


「祥子さん。本当にありがとう」
「え?」


祥子さんは私が突然お礼を言ったことに、びっくりしたようだ


「お義父さん、どうしたんですか?」
「小夜子と再婚出来たのも君のお陰もあるし、可愛い孫も産んでくれた」
「そんなこと」
「私が1番感謝しているのはね、祥子さん。慎一郎を幸せにしてくれたことなんだ」
「……お義父さん」
「慎一郎のあんな幸せな顔を見せてくれて、ありがとう。君は私にとって、自慢の娘だよ」


ああ、また祥子さんを泣かせてしまった


「祥子、どうしたの?父さん、祥子に何を言ったの?大丈夫?祥子」


あんなに嫌がっていたのに祥希子を小夜子に預けて、慎一郎が祥子さんの隣に飛んできた


「大丈夫よ。慎一郎さん」
「本当に?祥子を泣かせるなんて、いくら父さんでも許さないからね」
「すまんすまん。父さんはただ祥子さんに『自慢の娘』と言ったんだ」
「そうなの、だから嬉しくて泣いただけなの」


慎一郎は怪訝そうな顔をしていたが、祥子がそう言うならと納得したようだ


そう、祥子さんは息子の嫁と言うよりは、私の娘だ
私達家族に幸せを運んできてくれた、大切な娘
慎一郎と一緒に、これからもずっと幸せな人生を歩んで行って欲しい
親としてそう願わずにはいられない存在に、いつの間にかなっていた

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