お見合い結婚時々妄想
番外編6 幸せ
「祥希ちゃん、たーくん。もうすぐお父さん帰って来るって」
「ほんと〜?」
「さきちゃん、お父さんにお帰りのちゅーする〜」


娘の祥希子は5才、息子の太一朗は3才になった
太一朗の名前は義父と夫の名前を貰った名前
ただ夫は『郎』の漢字を『朗』にしたいと私に言った


「朗らかに育って欲しいから」


と言った夫の顔がとても優しい顔で、私はすぐに賛成した


今日は夫が1ヶ月ぶりに帰って来る
夫の肩書きは、F社の専務取締役アメリカ支社長
つまり、アメリカに単身赴任中
私は着いていくはずだったのだが……
なんと3人目がお腹にいることが判明
夫がアメリカへ出発する頃、私は悪阻が酷く安定期になったら子供達と夫のところへ行くことにした
出産はアメリカでしようと思っている


「ただいま〜」
「あっ、お父さんだ!」
「お父さん!」


夫が帰ってきたとたん、玄関に走って行く子供達
私も後を追って玄関へ向かった


「祥希子、太一朗。ただいま。ちゃんとお母さんの言うこと聞いていい子にしてたか?」
「してた!さきちゃんいい子だったよ!」
「たーくんも!」
「よし!お利口な2人にお土産だ」


夫からお土産を受け取った子供達はきゃーとはしゃぎながらリビングへと走って行った


「お帰りなさい慎一郎さん。あと1週間でアメリカに行くのに。荷物増やしてどうするの?」
「大丈夫だよお菓子だから。1週間あれば無くなるよ。それより……ただいま祥子」


夫は私を優しく抱き締めて、キスをした


「ああ、やっと祥子を抱き締められる。こんな長い1ヶ月は産まれて初めてだった。子供達にも会えないし。あっ、お腹の子は順調?」
「ええ、順調よ。お医者さんのお墨付き」
「良かった」


久しぶりに家族揃ってご飯を食べて、子供達は夫とお風呂に入り、寝るまで夫の側を離れなかった


リビングで1人、テレビを見ていると、子供達を寝かしつけた夫が私の隣に座って、優しく肩を抱いた


「やっと寝てくれた。絵本を5冊も読まされた」
「最近、祥希ちゃんのブームなの」
「太一朗もちょっと見ないうちに大きくなってた。アメリカに行ったらグローブを買って、キャッチボールしよう」
「そう言えば、広い庭がある家って言ってたね」
「そう。僕一人じゃ広すぎるから、寂しかったよ」


そう言って夫は私を抱き締めた


「ねえ祥子。この子の名前なんだけど……」
「考えてくれたの?」
「うん。女の子だったら『祥瑛子(さえこ)』。男の子だったら『耀二朗(ようじろう)』にしようかと思うんだけど……」


私はそれを聞いて目を丸くした
だってそれは、私の死んだ両親、耀介と瑛子の名前を取ったものだったから


母は、祥希子が産まれて半年が過ぎた頃に急死した
家で倒れていた所を、朝から連絡がとれないからと心配した兄が発見して、救急車で運んだのだが、1度も意識が戻ることなく3日後に息を引き取った


「最期まで俺たちに世話かけずに逝くなんて、母さんらしいな。全く」


そう言って泣いたのは兄の修司
私も弟の昇司も、本当にそうだねと言って、泣いた


その頃からだろうか
子供が3人欲しいと思ったのは
それまでは、2人出来ればいいかなと思っていた
でも、子供の頃に父を亡くし、母が忙しくても兄妹3人だったから、寂しさも紛れた
そして母が亡くなった今、もし2人兄弟だったらと考えたのだ
両親が亡くなって、もし、もう1人の兄弟が死んでしまったら、1人ぼっちになってしまうんじゃないかと……
もちろん、私も夫も早死にするつもりもないし、私達が死んだ時、子供はそれぞれ家庭を持っているかもしれない
しかし、人間いつ死ぬかは誰にも分からない
母のように……


その事を夫に話したのは、母の四十九日が終わった頃
私の拙い話を真剣に聞いてくれた夫は、最後に笑って言った


「じゃ、頑張って働いて長生きしないとな。君と未来の子供達の為に」


それから息子の太一朗が産まれ、今は3人目がお腹の中にいる
そして慎一郎さんが考えてくれた名前には慎一郎さんの優しい気持ちがこもっていた


「慎一郎さん……」
「ダメかな?」
「ううん。ありがとう。とっても嬉しい。両親も喜んでくれるわ、きっと」


夫は安心したように笑って、私のお腹を撫でた
40代になっても夫はそんな風に見えない
元が整っているので、年をとってもハンサムなままだ
それに、私に対する扱いも出会ってから全く変わらない


「まだ性別分からないんだよね」
「うん。慎一郎さんはどっちが欲しい?」
「祥希子も太一朗も僕に似てるから、今度は祥子に似た子がいいな」
「私に似たら、大きくなった時に恨まれるわ。『お父さんに似たかった』って」
「そうかな?」
「それに、妄想癖が遺伝しても嫌だし」


そう言って口を尖らせる私に夫は吹き出した



「大丈夫。その時は僕が『お帰り』って言ってあげるから」


その言葉に私も笑った


「ねえ、慎一郎さん?」
「ん?」
「私の事、好き?」


夫は目を丸くした
それはそうだろう
私からこんなことを聞くのは、今までほとんど無いに等しい


それでも夫はすぐに笑顔になって、言ってくれた


「好きだよ」
「おばあちゃんになっても?」
「うん」
「ぶくぶく太っちゃっても?」
「うん」
「ずっと、ずっーと。いつまでも?」
「うん。好きだよ」


夫は私の頬を両手で包み、額をくっつけた


「僕の気持ちは出会った時から変わらない。愛してるよ、祥子。永遠に」
「私も、愛してる」


2人で笑いあって、とりとめのない事を話す
幸せだなぁと思う
この人と結婚して、本当に良かった

< 46 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop