失恋の傷には媚薬を
「女性スタッフに「詩織」て呼ばれていたのを何度か目にしていて…でも他は何も知らない。学校名もわからない、もちろん俺のことも何も知らない、名前すら伝えていないから。だからすっかり忘れていたんだ。初めて楓の実家へ行った時、「初めまして」と言ったのは誤魔化そうとしたわけではなく、本当に忘れていたんだ」
今思い出しても
あの時の亮平さんの態度は普通だった
何かを隠そう、とか
動揺した様子はなかった
でも、姉の方は違った
しきりに亮平さんに話しかけていた
姉はすぐに気がついていたのだろう
『姉のことはいつ思い出したの?』
「それは…、ある土曜日に、彼女が会社に来たんだ。楓のことで話したいって。やっぱり楓と仲直りがしたいんだと思って近くのカフェに行ったんだ。その時に思い出した」