Marriage Knot


「うとうとしていたから、あまりよく覚えていないんですけれど、確か、白い毛並みの猫です。特にペルシャとか、シャムとか、そんな純血種の猫じゃなくて、普通の猫でした。目は、緑と青のオッドアイ。鳴き声がちょっとかん高くてかわいかったけれど、桐哉さんがミックス(雑種)みたいな猫を抱いているのが意外で、そこは覚えています」

「……不思議なこともあるものですね。それはレーシーですよ。彼女が、天国から何かメッセージを送ってくれたのかな。そうでないと、僕たちの夢が通い合うなんてことはないでしょう」

桐哉さんはソファを勧めてくれた。そして、今日はガラスのおしゃれなピッチャーから水出しのアイスティーをタンブラーに注いでくれた。お言葉に甘えていただくと、それは渋みの少ないアールグレイだった。ほんのりと漂うベルガモットの香りが、「夢通い」の奇跡を起こしてくれたという、私の知らない「レーシー」という猫……私のブランド「Lacy Knot」と同じ名を持つ白猫のイメージを含んで、しっとりと室内に広がっていった。

「レーシーは、僕の姉がつけてくれた名前です。僕が拾ったレーシーは、白い毛並みがとてもやわらかくて、撫でていると心が落ち着いた。僕が見たことのある猫は、純血種の猫ばかりだったのですが、とてもお高くとまっているような近づきがたい猫ばかりで、好きになれなかった。でもレーシーは違ったんです。彼女の方から、僕に近づいてきてくれた。そして、心を許してくれた。ただ、嫉妬深くてね。僕以外の人間には爪を立てるし、家の中にいた犬たちが僕にしっぽを振ってすり寄ると威嚇していました。そんなところもかわいかったですよ」

思い出話をするうちに、桐哉さんの疲れたような、暗い表情は和らいでいった。彼は、もうここにはいないレーシーを撫でるように、空(くう)をそっと細い三本の指で泳がせるように弾ませた。

「あのやきもち焼きのレーシーが、結さんを認めたのかな」

桐哉さんはちょっと遠い目でほとんど聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいた。けれど、私の耳には快いバリトンが届いた。

私を、認める……。どういうことだろう。

そう疑問に思ったけれど、彼の少し思いつめたような顔を見ては聞くことができない。私は桐哉さんの力になろうと、あのプレゼントをバッグの中から取り出した。
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