『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
第5章

スタートライン

ベンと彼女は
お互いに被害者同士なわけで
そこには罪悪感も同情もないはずで…
それでも2人が結ばれたのは
お互いに惹かれあったからなんだと思う。

だから、今私に出来ることもないし
なにかする必要もない。


きっと、このままの方が誰もが幸せで
誰も傷つけないんだと思う。


それなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう…


すっかり寒くなってきた冬。
会社で新しい大きなプロジェクトが始まり
大事な取引先相手として現れたのは
ベンだった。


逢わなければ、そのうち時間が解決してくれると思ったのに…
このプロジェクトが終わるまで、毎日のように顔を合わせなければならなくなるなんて…

私達は「初めまして」と
名刺交換からスタートした。

見慣れた名前の「初めまして」は
切なくて、もどかしくさえ思えた。






あの低い声から発せられる言葉や
あの長い指で指示する姿は
どれも適格で尊敬すら覚えるほどだった。

「イケメンで仕事も出来る」
数日も経たないうちに
女子社員の噂になり始めたのは言うまでもなく、誰もがベンの出社を期待していた。

また、これもあの頃を思い出すけど
あくまでも私はこの会社の取引先の相手として対応していた。



「富士屋さん、今日これから打ち合わせ兼ねてご飯でもどうですか?」

このプロジェクトが始まってから1週間。
私の名前すら覚えてなさそうだったのに、
そう声をかけてくれたのはベンの方からだった。

あんなに可愛い彼女がいるのに
他の人を食事になんて誘っちゃって…さ。

「仕事ですよ!」

見透かされかのように笑顔で念を押された。


これがベンじゃなくても
こんな風に思ったのかはわからないけど…
仕事とはいえ女性を食事に誘うって行動に
違和感を感じた。


私じゃなくても誘ったのかな?

また少し期待する自分がいた。


やっぱり、ベンの言葉には
いつも期待しちゃうんだ。







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