『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
車に戻ると
篤志が静かに微笑みながら待ってくれていた


(ほら、ここにも優しい人間がいた。)


何も聞かない篤志の優しさに触れて
ふ。と、花音さんを思い出す。



そういえば、手を握られたとき…
彼女はシルバーリングしてなかったな。



やさしさの中の覚悟を感じて
私は決心した。



誰も傷つけたくない。


その為に私が出来ることは…


私の中から、ベンを消し去ること。




「篤志…

私、今はダメダメなんだけど
それでもいいかな?」



「ダメダメなんかじゃないよ。」

そういうと私の手を握り車を発進させた。





前へ進まなきゃ。


バックしたら、みんなが傷付く。


前へ進まなきゃ…




帰り道は、とても静かで


でも息苦しくなる沈黙じゃなくて
居心地のいい静寂だった。








次の日も、そのまた次の日も
私の日常は静かで
隣には篤志が笑ってて…


変にドキドキすることもなく
締め付けられるように
胸が痛くなることもなかった。



これが「幸せ」てことなのかな…?


毎日同じことの繰り返しの毎日。
けど、これがきっと望んでいた幸せ。

心が上がったり下がったりすることもない。だから掻き乱されなくてちょうどいいんだ。


居心地だって悪くないし。
ちょうどいい。



こうやって月日が流れるのも悪くない。



それなのに、ここのところ
心が騒つくのは…



もうすぐ3月のカレンダーをめくる準備を
しなくちゃならないからなのかな。





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