『来年の今日、同じ時間に、この場所で』
色んなことを一瞬で考えなくちゃいけなくて
どうしたらいいのかわからなくなっていた。


でも、一つだけわかるのは…
ベンを悲しませたくないってこと。

「ベンには真実は話さないで…」
弱い声しか出なかった。

目を見開いてこちらを見つめる花音。

「彼は
真実を聞いたらきっと傷付いてしまうから…」

「このままだと、彼は罪悪感だけで私と過ごすことになるのよ?それじゃあこれからも、もっともっと苦しむことになるわ」

「花音さんだって、ベンと離れたくないんでしょ?」

「それは勿論!!でも…彼はもうすでに
違う誰かを見てる。そして、
罪悪感という呪縛に苦しんでるの!」

「過去を知ることで
ベンと花音さんが傷付くことになる!」


「ベンが見てるのは私じゃないってわかってたのに。ううん、これまでもずっとベンが想っていたのは真凛さんだった。
それなのに私、大変なことをしてしまった…
本当に取り返しのつかないことを…御免なさい。」

凛とした表情はそこには無く
その場で泣き崩れた彼女を見て
息苦しくなった。


社長令嬢なんて…
私の周りには存在しなさすぎて
勝手なイメージしかなくて

当たり前にワガママで
自己中なんだって思ってた。

でも彼女はそれとは違っていた。


だからこそ、
私の自己中な片想いのせいで
2人を傷つけてしまうことが苦しくて

再開なんて望まなきゃ良かったと
後悔した。

取り返しのつかないことをしてしまったのは
私の方だと思った。



誰かを助ける為に傷をおって
ベンのすべてだったサッカーの道を諦めたのに…


誰かの理不尽の為に

自分のせいで大切な人に、
一生の傷をおわせてしまったと背負いながら生きてきたという

大きな嘘を知ってしまったら
彼はどうなってしまうのだろう…。


私にはとうてい想像もつかなかった。


私がずっと知りたかった真実は、
あの日
ベンがシャーペンを返しにきてくれたかどうか…

ベンが私のことを好きでいてくれたかどうか…



今になっては、すべてが自分の思い描いていたシナリオ通りだったことがわかったのに…


その真実さえ小さくて虚しい。


真実がすべてわかったのに
胸が苦しくて落ち着かないのは
どうしてだろう。


先の見えない暗いトンネルに入ったまま
戻ることも進むことも
出来なくなったかのようだった。


花音さんが、もっと悪い女で
私がいくらもがいても
ベンを奪いとっても罰が当たらないくらい
嫌な奴だった方が数百倍、楽だったのに…


やさしい人達ばかりが
傷付かなくてはいけない結果しか
本当に残ってないの?







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