ブーケ・リハーサル
「仕事はチームワーク。部の人たちと言葉を交わして、確認をする。これを怠らなければ大丈夫だよ」
「はい」

　上田さんが手を差し出してきた。私は迷うことなく彼女の手を握った。お互い少し微笑んでから、手を離した。

　それから部長と部の人たちに挨拶をした。こういうことは得意ではない。ありきたりな言葉ばかりになってしまう。それでも、ここで働けたことに感謝する気持ちを精一杯伝えた。

　挨拶を終え、エレベーターへ向かう廊下を歩いていると、手首を掴まれた。

「待って」

　話もしたくない男が後ろにいる。手を振り切って、無視をしようかとも思った。そんなことをすれば後味が悪くなりそうで、仕方なく後ろを向いた。

「なに？」
「会社、辞めるんだな」
「そうだけど」
「転職先は決まってるのか？」
「決まってるよ」
「どこ？」
「関係ないよね。私、急いでいるから」

　大した話もないようだ。私は会話を終わらせ、歩き出そうとした。

「あの、ごめん」

　もう一度、男の顔を見れば、暗い表情で突っ立っていた。

「なにに対して謝ってるの？」
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