ブーケ・リハーサル
「いや、それは」
「なにに謝ればいいかもわからないのに、無意味に謝られても困る。この前の結婚式とてもよかったよ。奥さんとお幸せに。あと、いいパパにならないとね。じゃあ、さようなら」

 全く感情のこもっていない声で単調に言い放つ。男はなにも言わず、私の顔を見ていた。もうこの男と会うことも二度とない。

 私は新しい場所で生きるんだ。



 目の前に大きなビルがそびえ立つ。さすが大手企業。ビルも立派だなと思う。今日からここが私の勤め先になる。株式会社rhodon(ロードン)は大手メガネメーカーだ。

 転職しようと求人サイトを見ていたとき、総務部と商品管理部の事務の中途採用を見つけた。大手の会社だし、採用される可能性は低いが、試しにと思い試験を受けた。その結果、採用されたのだ。

 人生はなにがあるかわからない。ここ最近、自分の身に降りかかったことを振り返り、そう思った。

 エントランスにある受付で、名前を伝える。数分後に男性社員が、エレベーターから降りてきた。そして駅の自動改札機のようになっているゲートにカードをかざす。そこを通り抜けた男性はこちらへと歩いてきた。

「高山さんですね」
「はい。はじめまして、高山です」
「人事部の加藤と申します」

 加藤さんは手に持っていた茶封筒からカードを出した。
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