ブーケ・リハーサル
「それは苦い思い出で。じゃあ、一人で観に行ったんですか?」
『うん。本当は彼女と観に行く予定だったんだ。待ち合わせ場所で振られた。それで、一人この映画を観たんだよ。映画館に入ったら、カップルか女性同士ばかりで、ちょっと肩身が狭かった』
「確かにこの内容だと、男性一人だと厳しいかもしれませんね」

 副社長はくすくすと笑っていた。

 今、どんな顔をして笑っているんだろう。

『あのさ、パーティーのことなんだけど、服はどうする予定?』
「松井さんにドレスは経費で落ちるって聞いたんで、プシュケのドレスを買おうと思っています。小物は自前のものでなんとかできたらいいんですけど」
『今週の日曜日、暇?』
「はい、特に予定は入っていませんけど」
『なら、一緒に買いに行こう』
「いえ、それはご迷惑になりますから」
『高山さん。パーティー初めてでしょ。どういうドレスがいいかは、経験者がいたほうが良いものが選べるよ』

 松井さんが言っていたような展開になりそうだ、どうしよう。まさか、松井さんがなにか言ったのだろうか?

「それは、そうかもしれませんが。それでしたら、松井さんにいろいろと聞いて買います」
『恵美(えみ)姉さんは忙しいから、秘書室でもそんなに会えないでしょ』

 いや、副社長の方が格段に忙しいと思います。普段は松井さんのこと恵美姉さんって呼んでるんだ。

「ですが、副社長のお手を煩わせるわけには」
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