ずっと前にね
先生は私の手を繋いだまま、ただ幻想的なこの景色を眺めていた。そしてぽつり、またぽつりと口を開いては話を進めていった。

「教師になってからも、うまく行かない事があるとよくここに来て一人になっていたんだ。どうすれば良いんだとか、ああすれば良かったんじゃないかとか。自問自答で解決策を練っていた。・・・そんな時だ。この景色に千里が入り込んできた。そこの下の浜辺に千里が一人で小さくうずくまって何時間も海を眺めていたんだ」

私と自分が重なった。柏崎先生はそう言いたいのかもしれない。昔、自分がしていた事を私もしているのではないかと疑ったのかもしれない。
あの時、部活に行くと嘘を吐いた所に柏崎先生がいたのは偶然じゃなかったのかもしれない。自分に似ていると悟って、確証のある徹底的な瞬間を見るためにわざとあそこにいたのかもしれない。もしそうだとしたら、私とずっと一緒にいてくれたのは私だからじゃなくて自分と似ているから。
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