ずっと前にね

やっぱ好きだわ

驚いたような表情をした千里は今も変わらず俺をときめかせる。落ち込んだり、喜んだり。コロコロと変わる表情が俺の不意をついて離す事を知らないんだ。

「俺も好きだったんだ、このパン」

ほら。さっきまで不安でいっぱいだというような表情をしていたのにまた笑っている。たぶん、俺が彼女に惚れたのはいつまで経っても変わらない無邪気な笑顔があるから。山の天気のように変わりやすい、見ていて飽きない純粋な表情があるからなんだろうな。
それから俺たちは昔話に花を咲かせた。俺の足にバッタが止まって固まっていたら、千里が捕まえて逃がしてあげていた事。鉄棒が出来なくて困っていた千里に何度も逆上がりを教えてあげた事。
そういえばかくれんぼをしていた時、中々見付からなくて外に出たら夜になっていた事があったな。怖がって俺の手を強く握る千里を幼いながらに助けてあげなきゃ、そばにいてあげなきゃって怖がっている自分に言い聞かせていたっけ。
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