マリンシュガーブルー

 もちろん彼は美鈴にこう言ってくれた。『一緒に来る気はあるか』と。

 恋人ならばそう言ってくれるもの。ただ、彼は恋人として美鈴の意思確認はしてくれたが、そこからの『問い』に含みがあった。

『大丈夫か、俺と東京に来て、ちゃんと俺と一緒にやっていけるか』

 それは? 私があなたのパートナーとしてまだ信頼できない、頼りないということ? そう聞き返したかったが、美鈴は聞くことができなかった。こう思いついたということは、美鈴自身も自覚しているとわかってしまったから。

 そんな黙っている美鈴を見て、初めて彼が苛立ちを募らせた顔を見せた。

『俺はこれからもっと忙しくなる。東京で一人になることもあるかもしれない。それでも、大丈夫か。この街に置いていく家族のこと大丈夫か』

 彼が気にしているのはそこだった。どちらかというと『ほうっておけない実家』なのは確かだった。

 父は早くに他界し、弟も上京してしまい、母子ふたり。結婚するにしても母を一人にするなんて……という気持ちがまず湧く。それでも地元の男性なら大丈夫だと思ってきた。

 だがその母が他界した。これで美鈴一人ならもう自分の思うところへ行けるとなるだろうが、この土地に古くから根を張る家のため、それをキッカケに長男だった父から譲り受け、母が管理していた財産を分与することで親戚とごたごたした。

 親がいなくなった力無い若輩の美鈴と弟の宗佑に圧力がかかった。弁護士を入れて整理するのも大変だった。

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