マリンシュガーブルー
 母の他界をキッカケに弟が妻と一緒に地元に帰ってきた。姉ちゃん一人で親戚に対応はできないだろうと、他界した母の法事などがひと通り落ち着くまでの一時的な長期帰省として、しばらくそばにいてくれることになった。

 代々のお骨を受け継いでいる墓の管理についてもあれこれ重責をかけられる。親戚に負けないよう、姉弟で力を合わせて過ごしてきた。そういう放っておけない実家。彼はそんな実家に翻弄される美鈴を見てきたから、『ついてくるなら、完全に置いていけ』と言っているのだ。

『実家のことは弟に任せろというの?』

 美鈴の問いに、凛々しいスーツ姿の彼が……心苦しそうにうつむいた。

『そうだ……。長男なんだろ。彼に任せて、滅多に関わらないでほしい』

 特に財産分与で親戚とのごたごたがあった時、彼はとても優しく労ってくれ、弁護士の手配なども骨折ってくれた。だからこそ、彼もその『苦労』を味わってしまったのかもしれない。

 東京でこれから仕事をするのに、パートナー側のトラブルはなるべく軽減したい。そう思っているのだろう。

 俺との暮らしを選ぶのか、実家を選ぶのか。美鈴はそう突きつけられている。

 そして彼は暗にほのめかしている。『俺はつきあっている彼女にきちんとついてくるかどうかの意思確認はした、捨ててはいない』。でも美鈴が答えにくい、選びようもない難問を突きつけている。

 彼は美鈴がついてくることなど望んでいない。美鈴から断って欲しいのだと透けて見えてしまった。
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