マリンシュガーブルー
 繁盛している弟のお店のおかげで手伝いにやり甲斐が生まれ、かわいくて気だての良い義妹と一緒に暮らしているおかげで、だいぶ気が紛れ、毎日を過ごすことができるようになってきた。

 心残りは……、天職だと信じていた仕事を辞めてしまったこと。自分の力でやっていけると頑張ったのに、やはり実力不足だったこと。証明できなかったこと。

 でも美鈴は振り返る。そう、天職と思いこんでいただけかもしれない。『恋』をしていたから。

 恋も仕事もなくした。ううん……、結局、投げ出してしまったんだ。認めたくないけれどきっとそうで、そして泣きたいほど情けない。

 こんなになにも持っていない私は、これからどうなっていくのだろう。恋がすぐできるとも思えない。仕事も、弟の手伝いを辞める日が来るとして、それから新しくなにをしようかも考えられない。

 もう三十過ぎた。三十を過ぎてそんな不安をいつも抱えている。

「いらっしゃい。そろそろ来ると思っていたよ」
「いつもお世話になっています。蒸し暑いですね」
「でも梅雨が明けたら、今度は夏本番やけん。どっちがいいのやら」

 古い長屋でいまも醤油屋をしているご主人が、昔懐かしい造りのままの店先で迎えてくれる。

「いつもの本数でいいかな」
「お願いします」

 業務用で使う分と、店頭で小売りするものとまとめて購入していた。
< 23 / 110 >

この作品をシェア

pagetop