マリンシュガーブルー

 ディナーの時間になると、若い女性客とカップルが多くなる。
 昼間にゆったりランチを取る層とはまた違うお客様で賑わう。

 本日のディナーメニューは『赤ワインをつかった大人のハッシュドビーフ』。

 このお店を気に入って時々通ってくれるOLさんの顔もちらほら。いまどきのお洒落な服装に、素敵なバッグ、綺麗なヘアにメイクやネイルを見ていると、美鈴も羨ましくなってくる。

 もう一度、戻りたい? そう自問自答するが仕事場の雰囲気を思い出すと胃が痛くなる。でもそのような仕事に戻らないと、彼女達のような楽しみは得られなくなる。

 今日も生成り色のクロップドパンツにシンプルなティシャツ、黒いエプロンをして、黒髪も伸ばしっぱなしのままシンプルなヘアゴムだけでひとくくり。もう彼女達のような生活ではない。

 そんな楽しそうな彼女達とは別に、黒いスーツ姿の眼鏡のビジネスマンも近頃やってくる。二、三人のグループでやってきて食事をしていく。

『残業中の食事? それとも残業後? わざわざ港にあるうちまで来てくれたのかな』、美鈴はそう思っていた。

 昼間ならば営業廻りのついでに寄ってくれるビジネスマンが多いけれど、夜、わざわざ仕事の様子で来てくれるビジネスマンは珍しい。時折、もうすこしカジュアルなジャケットとデニムパンツスタイルの男性二人組と待ち合わせをしていた。

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