マリンシュガーブルー

 湿り気が多い夜、眠れずに窓を開けると、港からの風が入ってくる。
 しょっぱい風の匂いは嫌いではない。子供の頃から嗅いできた匂い。

 彼の怖い顔、厳つい視線。なのに……、甘い微笑み。渋くて低い声。『お姉さん、大変ですね』と優しい語り口。逞しい腕と、がっしりとした肩を隠している黒いジャケット。

 彼はきっと、お醤油のバニラアイスと一緒。しょっぱいしょっぱいと見せかけて、かけて食べてみると、とろけるように甘い甘いキャラメルの味。彼もきっと甘い……。

 彼のなにもかもがちらついて眠れない。

「だめだよ……。私、なにもかも中途半端なんだから」

 東京本社へと出世する彼にすら怖じ気づいて、前へ進めなかった自分。恋をするのは簡単で、でも一人の男に添い遂げる覚悟のない、軽い気持ちの恋しかできない。

 きっと今回もそれだけ。男の人を素敵に感じるだなんて、簡単なこと。
 勘違いしてはいけない。
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