マリンシュガーブルー

これからティータイム。女性客と休憩で入ってくるビジネスマンが主になってくる前に彼がやっと席を立つ。
もうすぐ梅雨がやってくる蒸し暑い初夏のせいか、彼が初めて黒いジャケットを脱いで腕にかけレジにやってきた。

「ご馳走様でした」
「いつもありがとうございます」

精算をしておつりを渡そうとしたその時、彼がうっかり黒いジャケットを腕から滑り落としてしまう。

「大丈夫でしょうか。汚れませんでしたか」
「大丈夫です」

渋く低く落ち着いた声、決して慌てることもなさそうな動作。それに、ワイシャツをめくっているその腕、とっても筋肉質で逞しそう!? 

「汚れたようでしたら、おっしゃってください。拭くものを持って参りますから」
「お気遣いありがとうございます。着古している仕事着なのでなんてことはないです」

その腕を伸ばして彼がジャケットを拾おうとして……。美鈴はハッとする。

腕を伸ばすことで捲った袖口が上へとずれたその時、ちらっと見えたのは赤や緑そして青色や黒の……模様? そして長さがある傷跡。

青ざめた。思わず、そこに控えていた弟を見ると、宗佑も気がついたのか呆然としている。

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