マリンシュガーブルー

「タケルさんが寅を背負った人でも、私、タケルという男の人に惹かれたの」

 その瞬間、タケルの目が燃えたのを美鈴は見る。

「ほんとうに遠慮しない」

 男の眼がどうしてか戦闘態勢を迎えた目になっている。美鈴もこっくりと頷いて、シーツを握りしめた。きっときっとすごく力強いものが襲ってくると予感したから。

「綺麗な、声……、俺の、綺麗な鈴、ぴったりの名だって……」
 うわごとのようにそう呟きながら、彼も男の行為に無我夢中になって……。

 遠慮しないで。遠慮しない。
 先のことなんてわからない。でも……。
 きっと彼も同じ事感じていると思う。でも……。
 恋だけ、愛は……? そこまで思いつかない。

 それでも、私とあなたはいま、何にも囚われないで愛しあっている。彼が店に来て美鈴が店にいてお互いに気になっていた、でも、距離を取っていたこと、どことなくわかっていながらも。もうこんなに素肌が触れるまでに近づいてしまった。

 欲しくて欲しくて触れた恋は、こんなに熱くて甘くて、そしてどこか切ない。潮の匂いと港の青い色――。
 男が愛してくれる最後の力。肩の寅が美鈴を見ている。

「寅、寅がわたしを……見て……る」
「美鈴、俺を見て」

 寅の模様ばかり見ていたからなのか、覆い被さってきた彼が美鈴にそう言って熱くて濃厚なキスをした。
 なんの隔てもない交わりの最後……。男の匂いと潮の匂いが混じっていた。
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