気高き国王の過保護な愛執



危ない、とフレデリカが思う間もなかった。

一瞬、光が走ったように目の前がまたたき、鉄と鉄がぶつかる激しい音がした。

ルビオの剣が鞘から抜かれ、クラウスの振り降ろした刃を支えている。

先ほどまで不安に揺れていたルビオの瞳は、なんの迷いもなく敵を見据えていた。

フレデリカは、ルビオが片時もはなさず腰に差していた長剣の、抜身の剣身を初めて目の当たりにし、その美しさに圧倒された。

強度と鋭利さの両者が共存できる、ぎりぎりの一点を狙って磨かれた刃。

代々引き継がれ、王だけが持つことのできる剣。

イレーネが小さく口笛を吹いた。


「兄さまがあれを抜いたの、初めて見たわ」

「イレーネ様もですか」

「光栄に思いなさいよ、リッカ。ディートリヒ兄さまは、剣神と謳われたおじいさまが、唯一認めた使い手よ。その剣技をこの距離で拝めるのよ!」


再び剣同士が弾き合う音が響き、はっとした。

フレデリカは、命の奪い合いが眼前で行われていることに、胃が引きつれるような拒絶を覚えたが、どうしてか、まばたきも忘れて見入った。

刃がぶつかり合い、互いを弾く。剣身をすべらせて相手の剣を受け流し、鍔で押し返す。容赦ない突きを払い、喉、目、と急所を狙って振られる剣を、ことごとく打ち返す。

舞っているみたい、とフレデリカは思った。


「兄さま、あれじゃ負けるわ」

「えっ」


イレーネが難しい顔をしている。


「傷つけたくないのよ。指ごと吹っ飛ばすつもりでいけば、もうあんな偽クラウスの剣なんか、弾き飛ばしているはずなのに。それにどういうわけか、いまひとつ──あっ、いっけない」


王女が立ち上がった。


「兄さま、そのクラウスは偽物よ! 兄さまの親友じゃないわ!」
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