気高き国王の過保護な愛執
おかしくて仕方ないらしい。クラウスはついに天を仰いで笑い出した。

フレデリカは呆然としていたが、イレーネは「それで?」と食いついている。


「したの?」

「ご冗談を。妃殿下の美しさを思えばやぶさかではないですが、性格がねえ! 急所を差し出してまで仲よくなりたいとは思いませんね」

「なーんだ」

「さて」


クラウスはおもむろに、懐から汚れた布を取り出し、さっとかぶった。フレデリカは目を疑った。

さっきまで美青年だったはずのクラウスが、瞬時に老人と化したからだ。

おそらくまたどこかに潜るつもりなのだろう。

たいした役者だわ、と感心した。


「というわけでお断りしたところ、当然ながら私のことはばれました。今では王妃たちも、目論見が崩れたことを悟ったでしょう。いよいよ最終局面ですね」


あっけらかんと両手を広げ、声だけは美しいままのクラウスだ。


「顔が傷ついても性根は変わらずね、安心したわ」


イレーネの言葉に、クラウスが、はんと鼻で笑う。


「私の美貌は、半分になったところでジャン・ミュイ五十人が束になってかかってきても敵じゃありませんよ。むしろ陰が増していいという声も」

「え、もう女と遊んでるの…?」

「遊んでなど。常に真剣勝負です」


あっそ、とイレーネがあしらい、言葉を失っているフレデリカに気づいた。


「リッカは純情なのよ、へんな話聞かせないでやって」

「おや、それはディーターも楽しみ甲斐がありそうだ、うらやましい」

「あなた、リッカに色目を使ったら、兄さまの剣で真っ二つにされるわよ」

「ご心配なく。私の食指が動くのは、女性の清純さより、円熟味のほうになので。だけどそうだな、ふたりで使えば獣のごとく一心不乱にまぐわることのできる薬がありますよ。ディーターに預けておきましょうか」

「いりません!」


真っ赤になったフレデリカは、なぜか幼いイレーネにまで笑われた。

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