気高き国王の過保護な愛執
「王子が行方知れずになったとき、まだ先王はお元気だったという証が、こちらに」


言いながら、革の表紙をめくってみせる。

そこには偶然挟み込まれたような、糸切りスミレの押し花が張りついていた。


「ゲーアハルト殿!」


クラウスが叫ぶと同時に、ゲーアハルトは身を翻し、王妃の隠し持っていた短剣が腿を突き通すのを、かろうじてよけた。王妃の手首を掴み、短剣を振り落とす。

憎々しげにフレデリカを睨む王妃の顔は上気し、目は蛇のように光っていた。

続くフレデリカの声は、緊張を帯びていた。


「糸切りスミレの開花時期は、わずか十日間ほど。国花であるこの花は、春の訪れのしるしともされるため、王城内の株は観測用の基準株とされているのをご存じですね。そして開花した日付は記録され、花も王立書院が保存します」


そこまで言うと、フレデリカは音を立てて聖書を閉じた。


「この押し花が、あの年の春、王城で咲いたものであることが確認されました。王の聖書に、誰が勝手に花を挟むでしょう? スミレの咲いた庭を、先王ご自身が歩かれた証にほかなりません。そしてその頃、王子はすでに下流の村で保護されていたのです」


ゲーアハルトが王妃にささやく。


「私の部下が確認しております」


ルビオは甘い匂いと共に、目を覚ました当時、村中に咲き乱れていた糸切りスミレの花の群れを思い出した。

あの村より高い位置にある王城は、咲く時期も遅い。その数日のずれが、ルビオの命綱だったのだ。

病で衰えた背中を屈め、花のそばで聖書を開いていた父王の姿が想像され、縄で拘束され続けて麻痺しかけた手を、硬く握りしめた。


「母上…」


三日間、使うことのなかった喉は、かすれ声しか出ない。

王妃が横目でこちらを見る。


「実の子であるカスパルが愛しいのも、そのために私が憎いのもわかります。ですがあなたも、この王城に暮らし、仕えてもらう立場の人間なら」
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