気高き国王の過保護な愛執
「施しもできないのに敬意だけ受け取るわけにはいかないのよ」

「オットーの医療は、十分な施しになっていると思うけどな」

「父はね。私は違う」

「みんなリッカを好きだよ」


フレデリカは、この世界中で父親しか使わないその愛称を、気負いなく呼んでくれる声に、心が休まる気がした。


「こんばんは、いい宵を」

「ありがとう、いい宵を」


前方から歩いてきた女性二人組のうち片方が、すれ違いざまルビオにクルミほどの大きさのものを渡した。ルビオはそれをぱくりと口に入れ、もぐもぐと咀嚼しながら、じーっと見つめるフレデリカに、「これ、なにかな」と聞いた。


「なぜかみんながくれるんだ。祭りの食べ物? もう腹が一杯だ」


フレデリカは、顰蹙が顔に出ないよう抑え込んだ。リノはわざと教えなかったに違いない。


「…このあたりの麦の女神様はね、子宝の神様でもあるの」

「ふうん」

「ラ・セバーダの間、女性は押し麦を炊いたものにきれいな色をつけて、気に入った男性に渡すの。つまりあなたは求婚されたのよ。お腹が一杯になるほどの女性からね」


ルビオの口の動きがゆっくりになり、やがて止まった。間違って食べ物じゃないものを口に入れてしまったみたいな顔で、くぐもった声をだす。


「…受け取るのは、どんな意味になる?」

「そうねえ、時代も変わったから、まあ、"ありがと、きみも悪くないよ。今度会ったら愛を育む試みをしようか"くらいの意味かしらね」


ルビオが口の中のものを、飲み込みかねて右に左に転がしている。その矢先、またひとりの女性が、微笑みを投げかけて麦飯の団子を握らせた。

フレデリカは、じっとその手に目をやる。断る隙すら与えてもらえなかったルビオが、ようやくごくっと口の中身を喉の奥に押し込んだ。


「知らなかったんだ」

「大丈夫よ、昔は本当にこれが婿探しだったらしいけど、今じゃただの恋遊びだもの。いくつかの約束を反故にしたところで、刺されたりしないわ」

「ぼくはきみに言い訳してるんだ」

「どうして私にするのよ?」

「そういう顔をするからだろ!」

「どんな顔よ!?」

「おいおい、なに喧嘩してる」


かけられた声に、ふたりがはっと振り返る。あきれ顔でランタンを掲げているのは、オットーだった。
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