気高き国王の過保護な愛執
死んではいない。目の前にある身体には、まだ生命が宿っている。医師である父の助手をすることもあるフレデリカには、それがわかった。

さらに近づき、顔のそばに屈み込んだ。わずかに横に向けられた顔は青白く、泥と土に汚れ、濡れた金色の髪が張りついている。

生気のなさにさえ目をつぶれば、彼はまるで花の匂いをかいでいるように見えた。

閉じられた目の縁には長いまつ毛、通った鼻筋。かすかに開いた唇のすき間から、白い歯が覗いている。


「ねえ…」


肩を揺すろうと手を伸ばし、はっと息をのんだ。白い上衣の左胸に、赤黒い染みがある。

身体の下敷きになり、地面との狭間に消えているその部分を確かめようと、腕に力を込めて、脱力した青年の肉体を仰向けに転がした。

思ったよりはるかに重かったためうまくいかず、だが胸元は見えた。

青年は、半身が血まみれだった。


「大変」


力の抜けた人間は扱いにくいことを知っている。彼女の手には余ることが、試すまでもなくわかった。

フレデリカは急いで立ち上がった。人を呼びに屋敷に戻りかけ、思い直して戻り、肩をくるんでいた毛布を取って彼の身体にかける。


「すぐ迎えにくるわ」


聞こえていないと知りつつ、声をかけずにはいられなかった。

フレデリカは屋敷に向かって一目散に駆けた。




「お前はあの川で、変わったものを見つけるのが得意だね」

「そんな、きれいな丸い石みたいに言わないでちょうだい」

「こりゃ、ちょっと厄介だぞ、っと」


農具や雑多な道具が収めてある納屋の、隅に置いてある古ぼけた木製の長持の上に、川の水を滴らせながら青年の身体がどさりと転がされた。

フレデリカの老いた父、オットーが、関節の硬化した手で己の肩を大儀そうに揉む。川からここまで、青年を担いできたのだ。そして慎重に、長持の上の若い肉体を横向きに寝かせた。


「矢だな」


言われてフレデリカは、父親の指の先を覗き込んだ。青年の背中の肩甲骨が始まるあたりから矢が入り、斜めに胸板を貫き、鉄製の矢じりが腕のつけねに顔を出している。

背中から飛び出した軸は、小指ほどの長さを残して折れ、服の下に隠れていた。川のほとりで彼女が矢に気づかなかったのはそのせいだ。
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