気高き国王の過保護な愛執
「出血はこっちの傷からだ。これも矢が負わせたものだな」


同じ左肩の上部に、えぐり取られたような傷がある。


「気絶しているのならちょうどいい」


オットーが彼の上衣を脱がせ始める。フレデリカは「お湯を持ってくる」と納屋を出た。

外は夕暮れて、空は橙と藍の美しいまだらになっていた。

いったいあの人は誰で、なぜ矢なんか射かけられたのかしら。

屋敷に向かう小路の草を踏みながら考える。

牢から逃げ出した罪人? ううん、あの肌着は絹だった。捕らえられていた人間の着るものじゃない。それどころかかなり裕福な、身分のある人間が身に着けるものだ。

屋敷の横手に回り、食料庫を抜けて台所に入った。かまどの上の深鍋に熱湯が沸いている。

銅のたらいに湯を移し、手を浸せる温度になるまで汲み置きの水を注いだ。鍋にも水を足しておく。棚からありったけの清潔なリネンを出してたらいと一緒に抱え、納屋へ戻る。

中ではオットーが、矢の軸の先端をなめらかに削り終えたところだった。

麻布を敷いただけの木の台に、衣服を剥がれた青年が左肩を上にして横たえられ、腰から下を毛布が覆っている。

湯で絞ったリネンで、フレデリカが顔や手などにこびりついた泥を落としてやると、輝くような肌とその下の若々しい骨格、涼やかな顔立ちが現れた。


「きれいな人ね。どこの誰なのかしら」

「とりあえず、けが人なのは間違いない。さて、いくぞ」


オットーが、湯気を吹いている布を青年の胸に当て、もう一枚の布を、背中から飛び出した軸にかぶせる。青年の肩を前後から手で挟むようにし、ぐっとその手に力を込めた。

布の下で、矢の軸がわずかに身体にめり込んだ。同じだけ、矢じりの先端が皮膚を破って出てきているはずだ。


「…あっ、ぐ」


青年が呻き、力の抜けていた身体が、びくりと大きく跳ねた。

手が力なく台の上の布を引っ掻き、身体を起こそうとするも、オットーの力強い手に押さえ込まれておりかなわない。青年はふいに背中をたわませ、台の上に大量の水を吐いた。
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